CASE導入事例

立命館大学・立命館アジア太平洋大学 様

立命館大学 衣笠キャンパス

立命館大学の全キャンパスと立命館アジア太平洋大学にSymetrixのDSPミキサー RadiusNX12x8が100台以上導入

事業内容
2020年に創始150年、学園創立120周年を迎えた歴史と伝統を誇る私立総合学園のひとつ
導入製品
Symetrix社 RadiusNX12x8(Dante対応DSPミキサー)、AEC-1(AECプロセッサーボード)

コロナ禍において教育現場でも大きな変革が求められる中、立命館大学の全キャンパス(衣笠, びわこ・くさつ, 大阪いばらき, 朱雀, 東京, 大阪梅田)と立命館アジア太平洋大学に、SymetrixのDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)ミキサー RadiusNX12x8が100台以上導入され、全教室の遠隔授業対応を支えました。

立命館大学の音響機器選定を担い、今回のプロジェクトの指揮を執られた、情報システム部情報基盤課課長補佐 倉科健吾氏にお話を伺いました。本記事は弊社スタッフとの対談を再現しております。

—世界中が大きな変革を経験した一年でした。教育現場ではどのようなことが起きていたのでしょうか。

倉科 例えば、立命館大学 衣笠キャンパスがある京都は、古くから「学問のまち」、「大学のまち」として知られ、住みやすいと学生に人気のまちです。しかし昨年は飲食店の時短要請などの影響もあり、アルバイトで生計を支える学生たちにとっても大変厳しい一年となりました。

キャンパスで受けることができる授業が限定される中、下宿を続けるか、オンライン授業だけで大学に通う意味があるのかなど、大学で学び続けることへの葛藤がある学生も少なくありません。「単位」を抜きにすれば、海外トップレベルの教育機関の講義をインターネットから無料で受講できる時代ですので、大学にとって存在意義が問われた一年だったと言えます。

—京都、滋賀、大阪にある立命館大学のキャンパスには35000人の学生が在籍。大分に立地する立命館アジア太平洋大学には、世界94ヵ国・地域から5700人の学生が集い、学生の約半数が海外からの留学生という、日本でも最も国際化が進んでいる大学だと伺います。

倉科 はい。多様性豊かなキャンパス環境が立命館の強みでもあるのですが、新入生や一時帰国していた留学生、そして先生方が入国できないなど、コロナ禍においては出身地域の多様性が逆に大きな課題となりました。

2020年4月の緊急事態宣言の発令により、4月と5月は休講せざるを得なくなりました。5月から7月にかけてはオンライン授業を中心に、実習科目のみの対面授業を行いましたが、そのあとに行った調査では、学生はオンラインでの授業でも学びの実感を持てた一方で、リアルなコミュニケーションを求めている傾向が明らかになりました。

大学は授業を受けるだけではなく、多様な人の考えに接することができる場でもあります。オンラインに教材を展開したオンデマンド授業も行われましたが、そればかりでは長期間モチベーションを維持するのは難しいのが現実です。そこで、9月の秋学期には対面授業を一部再開し、「対面」と「オンライン」、さらには対面とオンラインをリアルで行う「ハイブリッド型」の授業を併用することになりました。

パソコンを用いてハイブリッド型授業を行う教室

パソコンを用いてハイブリッド型授業を行う大教室

—教室をハイブリッド授業に対応すべく、既存のシステムを再構築されたわけですが、計画を立てられたのはいつ頃だったのですが?

倉科 2020年6月に、導入プランを会議に出しました。会議では「事態は変則的で、この授業は“ハイブリッド”、この授業は“対面のみ”としていても、急に変えざるを得ない可能性があり、対応する部屋が限定されると事務局で調整が難しい。少しでも学生にチャンスを用意したいので、すべての部屋をなんとかハイブリッド対応させてほしい。」と方向性が示され、全部屋対応の覚悟を決めました。

実は以前から、Web会議がジワジワと広まりつつあるのを感じ、いずれ全教室に、Web授業ができる環境を備える日がくることは想像していました。実際2018年頃から、会議室を中心に、WebとTV会議システムのハイブリッド化を進めており、一部の教室ではプロトタイプを作って色々と試し、設計プランも持っていたので、実現できそうだという頭もありました。

しかし今後10年かけてやろうと温めていたプロジェクトだったので、教室が空く夏休みから秋学期開始の約2か月という短期間で成し遂げねばならないことに、かなりの覚悟がいりましたね。

—100教室にも上る部屋を2か月で完工するのは、通常では考えられないスケジュール感だと思います。もともとWeb授業に対応可能な教室ばかりだったのでしょうか?

倉科 いえ、もともとあった遠隔講義室は、エコーバックしないスピーカーを選んだり、表示装置やカメラも配置に気を使ったりと、遠隔講義をやる前提ですべてを揃えているのですが、大半の教室は遠隔講義を前提にしていませんでした。

今後の展開を見込んで、以前から遠隔講義用に機材を仕込んでいる部屋もありましたが、システム構成的に厳しい部屋や、2~3年後に改修できたら良いなと思っていた、フルアナログシステムの部屋もたくさんありました。

バリアフリーも考慮された教室

バリアフリーにも考慮された教室。Martin Audioのスピーカーが天井に設置されている

—DSPミキサーにはSymetrixを選んでいただきましたが、Radiusを選択された決め手はあったのでしょうか?

倉科 様々な機器構成の部屋がある中、根幹となるDSPミキサーをどうするか。エコーキャンセラー対応、USBオーディオがあり外部制御ができて、DANTEにも対応。自由に音響フィルターやルーティングの仮想的な回路設計が可能な、SymetrixのRadiusでなければできない。その選択に迷いはありませんでした。

過去何年間か使ってきた中で、Radiusには信頼を置いており、以前からメインに使いたいと考えていました。運用して一年ほど経ちますが、DSPが原因でトラブルが起こったことはほぼ皆無です。

RadiusNX12x8が各教室で活躍中

Symetrix RadiusNX12x8が各教室で活躍中。下段はPowersoft Mezzoシリーズのパワーアンプ

倉科 TeamsやZoomなどのコミュニケーションツールも、ソフトウェアのバージョンが日々動いているので、使っている中で不可解な現象が起こるのは日常茶飯事です。先生が持ち込まれるパソコンの種類も、MacであったりWindowsであったりと様々。安定的な設定を作ったつもりでも、100%安心ということはありません。トラブルが発生したときに、すべてを疑って対処しなければいけないので、新しい事象に対しての原因探しは非常に困難です。そんな中、Symetrixを使用したDSP周りは足場が固まっており、トラブルを心配しなくて良いので、Symetrixがひとつの安心材料になっていると言えますね。

DSPがトラブルの原因となると、どうしても部屋の信頼度が下がってしまうのですが、現時点で事故はゼロ。もしトラブルの予兆があったとしても、リモートコントロール機能の一つであるSymVueで状況をつかむことができます。

例えばある施設では、SymVueを使って、機器の異常で音が途切れたら自動でメールを送信するよう設定しているのですが、この監視機能を専用で作るとなると、実はとてもコストがかかります。SymetrixのDSPはサブ機能として監視機能の搭載が可能で、非常に重宝しています。

【SymVueとは】Symetrix Composerソフトウェアを使用する、全てのSymetrix DSPに搭載されているリモートコントロール機能の一つ。Composerソフトウェアのほぼ全てのモジュール(フェーダーやスイッチ、メーターなど)の機能や、任意の画像などを自由に配置し、カスタムコントロールパネルを作成できる。

SymVue画面

グラフィカルにわかりやすく描かれたSymVue画面

—Symetrixの持つ機能をフルに使いこなしていただいていますよね。見事2か月でやり遂げられたわけですが、成功の要因はなんだったと思われますか。

倉科 工期が限られていたため、既存システムの主幹を崩さずに、しかしながら容易にWeb会議対応ができる拡張性がある機器を「追加」することに注力しました。

Symetrixは単に音響調整ができるオーディオDSPではなく、外部機器の制御システムとしても活躍してくれる製品ですが、今回の改修工事では、Web会議で必要なUSBオーディオインターフェイス、そして遠隔会議で必須機能のエコーキャンセラーとして扱っています。

教室によってシステム構成が異なります。それ故、Symetrixの入出力が持つ拡張性の柔軟さには助けられました。SymetrixのDSPにはたくさんのフィルターやモジュールが入っているため、将来的に必要が生じた際には、如何様にもプログラムを組むことができます。実際、工事中に、音声信号の処理方法を大きく変更したのですが、工事の変更を最小限に食い止めることができました。

このように、既存の環境に合わせられる柔軟性と拡張性を駆使したこと、そしてオーディオブレインズ様をはじめ、多くの協力企業の商品確保のご尽力、素晴らしいエンジニアの方々と技術的に未踏な世界で試行錯誤できたことが、限られた納期で100以上もの教室を「Web会議対応させるためアップグレードする」というゴールを達成することができた要因だと思っています。

また今回は、SymetrixのDSPをWeb授業のためにシステムに割り込ませていますが、今後の整備の中で、老朽化した音響システムを更新するときに、今回のDSPを中核にして、DANTEネットワークなどを使ってシンプルかつ、高品位なシステム構築ができる見通しもあり、将来的にも無駄のない機材投資ができたと捉えています。

—必要に迫られて始まったオンライン授業ですが、学生や先生方の評判はいかがでしたか。

倉科 Web授業ではチャット機能で質問が多く出たり、双方向のディスカッションやグループワークでは、オンライン授業のほうが学生も参加しやすいと評価する先生方が多くいらっしゃいました。学生からはもちろん、リアルな交流が欲しいという声も多いですが、Web授業への好意的な意見も多く寄せられています。

大きな規模の講義で、Web授業のほうが参画感が得やすいという声は印象に残りました。またリアルやタイムシフトも含め、ハイフレックスな授業形態への理解とニーズが深まってきていることも実感します。

グループワークを中心とした授業が行われる教室

グループワークを中心とした授業が行われる教室

—対面+オンラインをリアルタイムで行う「ハイブリッド型」の授業を進めるにあたり、難しい点はあったのでしょうか。

倉科 機材に慣れない先生方をどう支えるかという問題の他、遠隔で授業を受ける生徒たちへ届ける音にはこだわりました。一コマ90分という長時間の授業をヘッドフォンやイヤホンで聞くことになるので、疲れない音作りは絶対です。

わたしは15年以上テレビ会議に携わってきましたので、エコーバックへの対応や、ノイズキャンセリングがいかに重要かという認識は昔からあり、今回採用したSymetrixのDSPを始め、機材の選定には気を使いました。

遠隔授業が本格的に始まってみると、ON AIRランプを自ら購入され、YouTuberさながら配信される先生がいらしたりと、授業の幅が広がったな~というのは感じています。

—困難の中でも、その状況を楽しもうとしている先生の存在には元気をもらえますね。機材選定を担当される倉科さんは、機械の“クセ”も把握しコントロールしていらっしゃるように感じます。機械の事をよく理解されていて、お話していて驚かされることが多々あります。

倉科 機械なので、仕様上どうしようもないところはあります。機械は機械として働きやすく、そして人間がストレスなく働けるように、というのが最近のテーマです。あとは日々トラブルを経験していて、こうしていたらこのトラブルは起きなかったな、と考える習慣はあります。横展開は大変ですが、日単位でPDCA(Plan Do Check Action)サイクルを動かす感じですね。

怖いのは、機械は命じた以上のことができないし、自分の間違いや手抜きを忠実に反映することです。機械の長所は長所で重ねていき、短所は他のもので補う。ひとつの機械としてだけではなく、ひとつのシステムとして全体を作っていくというイメージを大切にしています。

Martin Audio

Martin Audioのスピーカーも教室の音響を支えている

—倉科さんの考えられるシステムは、裏では非常に複雑で最先端の技術が使われているにもかかわらず、Webにつながる以前の家庭のビデオデッキよりシンプルで簡単に使える点が素晴らしいと思います。機材に詳しくない人でも、ぱっと見て起動することができますよね?
またお仕事をご一緒していつも感心するのが、倉科さんのビジュアルセンスです。操作方法やSymVueで作られた操作画面など、誰にでもわかりやすく、みんなに優しいデザインだと感じます。

倉科 ありがとうございます。「みんなに優しい」は、私がデザインする上での重要なコンセプトです。プロの方が見ても納得していただけるし、機材の事がわからない人にも絵を追っていけばなんとか理解できるように、ということを考えて作っています。操作性においては客観的に見て、頭が真っ白になった状態でも使えるか、というシンプルさを重視しています。

また細かいことのように思えますが、小教室でも大ホールでも、ボタンやアイコンの配列や位置を揃えることで、使い勝手を統一するようにしています。小教室を使うスキルのある先生が、その延長線上で大ホールでコンサートが開けるようにしたい(笑)。40人の教室を使いこなせるスキルで200人のホールにも対応できるような、使いやすく統一化されたシステムを目指しています。

操作盤

「意外とない」アームが動くことで教卓が広く使えるオリジナルの操作盤。至る所に倉科氏の使いやすさへのこだわりが垣間見られる

—機材やサービスが日々進化する中で、ゴールがどんどん更新されていくと思うのですが、以前から伺ってみたかったことがあります。ずばり、倉科さんの仕事の流儀とは?

倉科 仕事の流儀ですか(笑)。テクノロジーは隠し味であると思っています。使う人の目線と技術的な制約の折り合いをつけるのが実情ですが、主役は“人”。

わたしの教室設計の思想根本は、教室は学生にとって学びの中心地、快適な空間であってほしい。先生にとっては智を広めていく場所、智の伝播を心おきなくできる場所であってほしい。先生や学生が共創して、智を作り上げていく交流の場。誰にとってもいつもの場所。それをサポートするメンバーにもわかりやすく、怖くない仕組みを。そこに「AVができることはなにか?」ということを中心に考えています。

複雑な技術が見えてしまうと、使われる方にプレッシャーになってしまうし、使い勝手が場所ごとに違うことも、戸惑いを生んでしまう。幅広い機器への対応と安定性を重視しつつも、“いつもの感じ”を提供していきたい。しかし中身は常に、ユーザーにとってメリットのあるアップグレードとエコへの取組みを続けています。

日々ユーザー対応で蓄積しているニーズや機会損失の苦い記憶を基に、メーカー様から出される魅力的な商品をどう使うかを考えたり、トライアルするのは結構夢があって面白いです。

先生方は機械を触りに来たのではなく、授業をしたいと思っていらっしゃいます。機材が変わったとしてもユーザーが違和感を覚えず「あれ?なんかいいかも。」と思ってもらえることが、システム設計の大成功かなと思っています。

すごいシステムに見えても、どう活用するか悩んでしまうようではもったいなくて。ちょっとした操作で、実はすごいことができる仕組みが理想的だと思います。見た目はあっさりですが、中身は超絶技巧を駆使している部屋もありますね。京料理みたいです。

今回取材に応じてくださった倉科氏

今回取材に応じてくださった倉科氏。立命館大学 衣笠キャンパスにて撮影

—ひとまず大きなお仕事を成し遂げられたわけですが、今後はどのような教室を作っていきたいなど構想はありますか?

倉科 今回は新たなストーリーの始まりで、ニーズのビッグバンが起こっていますね。ワイヤレスマイクをもっと増やしたいという要望に応えたり、マイクなしでディスカッションしましょうなど、全員がもっと自然体にWeb授業ができる部屋を作りたいと思っています。多くの方がWeb授業を経験され、いろいろなアイデアをお持ちなので、これを結晶化して、Webとリアル両方が楽しめる教室の構想を描いています。

—アイデアは尽きず、まだまだお忙しい日々が続きそうですね(笑)最後に、オーディオブレインズに対して何か一言ありましたらお願いします。

倉科 数あるDSPの中でSymetrixを使い続ける理由には、オーディオブレインズ様のサポートが欠かせません。営業やエンジニアの方々が私達の思いをわかってくださり、ど真ん中の対応をいただけるところが最大のポイントです。マルチベンダでシステム構築を進め運用する、施主の悩みやアイデアを受け取ってくださっていることに感謝です。

—嬉しいお言葉をありがとうございます!Symetrix DSPミキサーの他、Powersoftの固定設備向けコンパクトパワーアンプMezzoも導入いただき、消費電力削減による「エコ」に一役買っています。本日はありがとうございました。

笑顔満開のキャンパスライフを願って

「笑顔満開のキャンパスライフを願って。」先生や職員の方々の想いはひとつ

編集後記

「会話の中で挙がった空想のようなお話が蓄積して、いつしかそれが新しい仕組みを作るヒントになる」と話してくださった倉科様。常に新しい技術にアンテナを張り、あくなき探求心があってこそ、急な事態にも柔軟に対応することができるのだと改めて感じました。

また教室を拝見し、その進化に驚くと共に、多様化する授業形態を日々サポートされる職員の方々のご苦労も感じました。

取材にご協力頂きました立命館大学の倉科様には、この場を借りて御礼を申し上げます。