CASE導入事例
BANK30 様
ラグジュアリーオーシャンビューラウンジ「BANK30」にLuminex、Powersoft、Symetrixが導入
- 事業内容
- 日本初のラグジュアリーオーシャンビューラウンジ
- 導入製品
- Luminex社 GigaCore 12(スイッチ)、Powersoft社 Ottocanali 12K4, Ottocanali 8K3, Mezzo 324AD(パワーアンプ)、Symetrix社 RadiusNX4x4(DSPミキサー)
—この度はお時間をいただきありがとうございます。レストラン目前に広がる運河と空、そして潮の香りに、都心部とは思えない解放感を感じました。まずは「BANK30」について教えてください。
河合 「アトレ竹芝」は、駅直結で知られるアトレさんにとって初となる駅から離れた店舗で、「BANK30」はエンターテイメントに特化した館であるシアター棟にあります。
クラブというと、どうしてもアンダーグラウンドというイメージがあるかと思います。例えばラスベガスであればナイトエンタメということでカジノに家族で行けたりだとか、そういうのがエンタメの先進諸国。それに比べて日本はナイト産業が弱いよねというところから、「アトレ竹芝」のナイト部門をご用命いただきました。
私たちもこれまでクラブでやってきたアンダーグラウンドな世界を、気軽に楽しめるラグジュアリー空間へと進化させたい、という思いから「BANK30」が生まれました。
—「BANK30」ではDJイベントやライブを始め、ユニークなところでは落語会など多種多様なイベントが開催されています。
河合 はい。「BANK30」は常にエンターテイメントという大枠で物事を考えているので、取り扱うイベントはかなりレンジが広いです。日本の伝統芸能=エンタメということで落語であったり、あとはポールができるステージもありますので、ポールダンサーのショーなんかも行われています。開発の段階からお店作りに携わることができたので、企業の発表会など、広いフロアを生かしたイベントにも対応できるようになっています。
竹芝は観光地としても賑わっており、休日はレストランでの稼働も多いですね。テレビ番組やPV撮影の他、海外の観光局によるPRイベントなどでもご利用いただいています。最近ではブライダルのご相談も多いですね。
—音響面での設計及び機器選定のポイントを教えてください。
平田 「BANK30」では広いフロアのどこにいても良い音が聴けるよう、スピーカーを分散させています。そしてこれらを駆動するアンプにはPowersoftをチョイスしました。様々なメーカーのスピーカーを採用しているのですが、Powersoftはスピーカーメーカーを問わず駆動できるというのも採用の大きな決め手でした。
—ネットワークシステムについても教えてください。
平田 これだけの規模とスピーカー数ですので、デジタル化しないという選択肢はありませんでした。Dante化するのが一番わかりやすくワイヤリングも簡単だったのもあって、そうなってくるとシステムプロセッサーが重要です。オーディオブレインズさんに相談したところ「Symetrixだったら対応できる」というところから始まって。
コロナ禍というのもあり予算の削減は仕方ない部分ではありましたが、PowersoftとSymetrixは絶対にゆずれないポイントでしたし、この二つがあったからこそできたシステムだと思います。
—フロアすべてのスピーカーを駆動するPowersoftですが、機種別の用途を教えてください。
平田 メインのスピーカーはトップギアを入れないといけない場面が多いので、アンプにはポテンシャルがあるものをということでPowersoftのOttocanaliシリーズを選択。トイレやバーカウンター、厨房など、スピーカーが小さいものにはMezzo 324ADという具合に使い分けしています。
—SymetrixのDSPミキサーはどのように使用されているのでしょうか。
平田 SymetrixのRadiusNX4x4をスピーカーマトリクス+タッチパネル制御器として導入しています。Symetrixで制御したタッチパネルを使って各フロアの音量調整ができるのですが、タッチパネル上に施設の図面を入れて、該当エリアをタッチすればその場所の音量が触れる仕組みをオーディオブレインズさんに構築してもらいました。このタッチパネルがあれば、離れたエリアも簡単に監視が可能になります。
—タッチパネル自体はiPadを利用されていますよね。
平田 はい。万が一端末に不具合があった場合でも、バックアップ用のiPadに差し替えることですぐにトラブルに対応することができます。SymetrixのControl Serverを導入し無線接続していますので、このiPadは持ち歩くことができます。
—iPadでは“BGMモード”と“SHOWモード”が選択できるようになっていますが、これはどのように使われるのでしょう。
平田 「BANK30」をレストランとして利用する場合は“BGMモード”、ステージ上でイベントが行われる場合は“SHOWモード”と、ボタン一つでシーンが切り替えられるようになっています。具体的にはBGMモードではフロアに配置されたスピーカーから調整された音が出て、場所によって聞こえないところがないようチューニングしています。
SHOWモードでは後方に吊るしてあるスピーカーにディレイをかけており、ステージ近くのメインスピーカーの音が届いてから、フロアの音も流れる仕組みになっています。音の方向性が感じられるので、客席のお客様の目が自然とステージに向くようになっているんですよね。
—これだけの広さや設備のお店ですと、音響専任の方がいらっしゃる場合もあると思うのですが、すべてスタッフの方が操作されています。河合様から平田様にはどのようにリクエストを出されたのですか?
河合 「BANK30」はバンド演奏やDJのプレイもありますが、レストランでもありますので、そこはカテゴリーのひとつでしかないんですね。「BANK30」はライブハウスではないので、音響の知識がない人でも操作しやすいもの、というのは当初からリクエストとしてありました。
平田 先ほど話に上がったiPadがあれば、音響に詳しくないスタッフの方でも操作が簡単です。卓だけだと、音量を変えるにも通常二人がかりでチェックするか、フロアを行ったり来たりして調整しないといけないのが、その場にiPadを持って行って耳で聴いて感覚的に操作できるというのがいいですよね。
河合 まさに金曜日はレストラン営業とイベント事の融合なので、コース料理の進捗をみながら音量のコントロールをします。4時間構成のDJがプレイする中、こちら側で徐々にボリュームやテンションを上げていく。スタッフはお客様のポジションでDJのプレイを聞きながら、今どれぐらいの酔い具合で会話しているのか、あとは食事の進行を考えながら音量を上げていきます。なのでiPadはめちゃくちゃ持ち歩いています。
気持ちよく過ごしていただくために音量を引き上げていくことが大事なんですが、ただそれがあからさまにズドーンと上がるのと、お客様の様子をみながら引き上げるのとでは雲泥の差。そこの料理ができるというのは、まさに持ち歩きができるiPad画面がないと無理ですね。
オーディオブレインズ お客様の状況を見ながら、ということですよね。
河合 そうです。お食事のご予約で来ていただいていたのが、最終的に音と光に持ち上げられて踊って帰るお客様もいらしたりして(笑)
平田 そこまで持っていくオペレーションがすごいですよね!お酒も出るようになるしお客様も楽しいし、お互いハッピーだと思います。そういう気遣いのオペレーションができるのはかなり大きいと思います。
河合 それが卓とフロアのピストンだったら大変ですよね。逆に時と場合に応じて、ここだけは音量を下げようかという時もあります。メインフロアを躍らせる空間にしたいけれど、なにか不具合に思っていらっしゃるお客様がいるのであれば、音を落とした奥の席をご案内して、シーンを切り替えてしまう。音のメリハリが見えているのが非常に良いですよね。
オーディオブレインズ 壁沿いではゆっくりお話しができるように、ということですよね。
河合 そうですそうです。いろんなお客様がご来店されますので、逃げ場が作れるのは大事です。基本的に壁沿いの席はお食事や会話を、そして中央は踊りを楽しんでいただけるレイアウトになっています。サービスエリア(フロア中央)がスピーカーでサークルに囲まれているので、踊っていて気持ちいいんですよね。
平田 スタッフの皆さんはマナー講習を受講されていて、音もホスピタリティのひとつとして兼ねているのかなと思いますね。
—キッチンにもスピーカーがあって、スタッフの方も音楽を楽しみながらお仕事ができるとお聞きしました。
河合 そこがやはり平田イズムですよね(笑)普通そういう発想ないですから。
平田 スタッフのテンションがきちんと共有できていて、楽しんで働いていると、やっぱりお客様にも伝わるし、それが良い接客にもつながると思うんですよね。iPadで全エリアの音量が個別で調整できるようになっているのですが、楽屋や厨房などはその場にいらっしゃる方が自由に操作できるように、SymetrixのアナログボリュームコントローラーARC K1eを設置しています。
河合
キッチンも今は稼働率が上がってきて戦争なんで、音量を絞ることも多いですけど、こないだ初めてシェフから「厨房も音上げられないですか?」と話があったり(笑)
普通だったら削らないといけない部分だと思うんですけど、そこは死守しました。コストパフォーマンスにそこまで影響する金額ではなかったというのもありますが、ここを削ってしまったら平田さんに頼んだ意味がなくなるなと。そういう“楽しみ”みたいなのが今後は絶対的に生きてくるだろうから。
—運用していく上で音響のアップデートはありましたか。
河合 コロナ禍を経て、最近やっとやりたいことができるようになってきたということもあり、いまはマイナーチェンジしている最中ですね。やはり稼働してみないとわからないこともあったりして。ライブものはオファーも多く、当初のイメージよりかなり増えてきているのは感じますね。
平田 計画当初、バンドは全く考えていないと仰っていたんですけど(笑)始まる前の想定と実際運用が始まってから違いがあるのは当然です。その点「BANK30」はすべてDanteでシステムを構築しているので、あとから調整がきくのが良いですよね。Danteじゃなければ配線がすごいことになっていましたから。またDante化されているとトラブルがあっても原因を追いかけやすく、機材のメンテナンスがしやすいというのはすごく安心です。
オーディオブレインズ 以前であればハードを入れ替えてと大変だったのが、今の機材はソフトウェア的にアップデートできる点がお客様にとって優しくなっているのかなと感じます。
河合 ほんとそうですね。アンプルームを見ただけでデジタル化のすごさを感じます。昔は大型のクラブであれば、クーラーをガンガン入れてアンプルームを一部屋冷やすみたいなこともありましたから。すごいですよね、サイズもコンパクトになりました。
—余談ですが、平田様は昔DJをされていたとか。河合様も何か音楽に携わられていたのですか?
河合 僕も元々はDJからですね。僕の道筋は本当に王道で、最初クラブに遊びに行くようになって、今度はDJってどうやってやるんだろうと興味を持って、イベントってどうやって作るんだろう、その次はお店の経営ってどうやってやるんだろうという感じなので。平田さんはどうですか?
平田 僕は兄の影響ですね。中一でコンポを買ってもらったんですが、メロコアが流行っていた時期に僕はみんなと違うことをやろうと思い立って、新聞配達をしながら(笑)DJをやっていました。お金を貯めて中三でミックスセットを買ったのが始まりです。
河合・オーディオブレインズ 初めて聞きました(笑)
—Powersoftを選んでいただいている理由はなんでしょうか。
平田 弊社が輸入代理店を務めるTW AUDiOがPowersoftを推奨していたこともあって、実はPowersoftが日本に入ってきたときからのユーザーなのですが、当時からあのサイズであの出力って「モンスターみたいだな」という印象はありました。
あとはアンプとしてのハードウェア的な機能はもちろん、ソフトウェアArmoniaPlusの進化が大きいですね。ArmoniaPlusがあればやりたいことが全部できるというか、逆に自分のやりたいことがPowersoftじゃないとできない、というのも増えてきています。
コロナ禍で設備のお仕事を多くいただくようになり、芸術性というか、やれることというか、設備は設備なりのアイディアやノウハウ、見せ方があることに気づいてからぐっと面白さがわかるようになりました。そのタイミングで設備向けのMezzoが登場したので、よりPowersoftを提案しやすくなりましたね。
—Powersoftに対してどういう印象をお持ちですか?
平田 海外のメーカーはどうしても「人の顔」が見えづらい側面があると思うのですが、Powersoftは昔からエンジニアの方とも話ができる機会が多くて。Powersoftの技術の方に要望を出して、そこを実際にクリアしてもらったこともあったりと、すごくユーザー目線で信頼できるメーカーだなというのはあります。
—省エネと省スペースは意識されますか?
平田 かなり!省エネという点でいうとお店は毎日稼働していますので、ランニングコストで考えたときに、アンプの電気って年間でそれなりの金額と電力量が必要なんですよね。Powersoftはその点、自動でスタンバイモードに入ってくれたりだとか、待機電力も低いので、最終的なランニングコストで考えたときにかなりの差が出てくるのではないかと思います。
—VIPルームにはこだわりがあると伺いました。
平田
そうですね。「JADE(VIPルーム)」ではフロアの音を流しつつ、「JADE」側でも音を出せるのですが、ノーオペでどちらの音も出せるというのは画期的だったんじゃないかなと思います。音のレベルを見て、どちらの音を生かすか決める。たとえばカラオケ屋さんで、次の曲がかかるまでBGMが入ったりするじゃないですか。ゆっくり絶妙なタイミングでフェードイン&フェードアウトしていく、そういった高度なことを実現しています。
こちらはオーディオブレインズの技術スタッフさんによる入念な調整で、ちょうど良いタイミングになるようにしていただきました。
—河合様と平田様とでいろんなことをお話しされるとか。
河合
そうですね。いい意味でいつも言い合っています(笑)我々はクラブという業態のなかにも様々なジャンルを網羅する、という意識が強いんです。たとえば単純にクラブといっても、ヒップホップや4つ打ちに特化したクラブなど色々あって、それぞれベースの音の作られ方が違うからこそ、当然にその吐き出し方も違います。
たとえば卓ごと3系統必要と言われるような世界で、通常の音響メーカーさんだと断られるだろうなというような相談をぶつけられる相手って、平田さん以外いないと正直思います。
平田 限られた予算のなかでこれを実現しようとすると、いろんなメーカーを組み合わせてのプランニングが必須なので、普通メーカーさんは断りますよね(笑)でも僕はいろんなメーカーを提案させていただける、そこが面白いと思っていて。逆に僕らが遊ばせてもらっているというか、新しいことにチャレンジさせてもらっているという部分はあります。
河合 今回苦しかったのは、コロナ禍で僕も先が見えなかったんですよね。まず予算を圧縮しなくてはいけないし、アトレさんと長期での契約を結んでいるので、長期間継続していかなければならない。これからの年月を考えたときに、今はコロナで先が見えないけれど、先々のことを考えてやりかたったコンセプトをやるために、平田さんとは常に会話させていただきました。
ABCDぐらいまでパターンを出していただいて、お店の汎用性を考えつつ、「BANK30」オリジナルなプログラムを組んでもらったという形ですかね。ほんとに平田さん、ありがとうございます(笑)
平田 ほんとどうしたらいいんだろう…というところから始まって(笑)でも河合さんがこちらのやりたいということに乗ってくださったり、理解してくださったことが大きかったですね。
—お話を伺って、設備はお客様と設計される方の信頼関係が大事だと改めて感じました。「BANK30」の今後の展望をお聞かせください。
河合 お店としてまだまだやりきっていない部分はあるので、まずは組んでもらったシステムを使い切るということですかね。
平田 「BANK30」は家具も可動式になっていて、レイアウトをガラリと変えることができますよね。先日行われた車のイベントでは、実際に店内に車を引き入れて展示されていました。
河合 そうですね。通常であれば造作をしてホールでやるようなレベルのものが、一レストランですけどオファーをいただけている。それは中々ないでしょうね。広いスペースを活用した企業様の案件もこれからどんどん増えて欲しいですね。夏はテラス席でDJイベントというのもいいですよね。
—おいしいお酒と音楽を聴きながら夕涼み、気持ちよさそうです!「広い・多目的・部屋を分ける」とチャレンジングな現場だったかと想像しますが、平田様は今の「BANK30」をご覧になっていかがでしょうか。
平田 本当にいろんな方々の協力があって、この形になったなという思いがあります。常設の場合は意匠の問題もあり、制約がある中でベストを探るというのが難しい部分ではあるのですが、「BANK30」を通して、設備って面白いなと改めて感じました。設備は生き物というか。お客様に頼られることも多いですし、何かしてあげたいなと思うことが多いですね。
「音が良くなってお客さんがめっちゃ喜んでました」とか「会話がしやすくなってお酒がよく出るようになりました」と言っていただけるとやっぱりうれしいですね。「入れてからが始まり」というのが設備ですので、これからも陰ながら「BANK30」をサポートしていきたいと思っています。
編集後記
水辺を望む最高のロケーションに、美味しいお食事とエンターテイメント。気軽に海外に行けなくなって久しいですが、「BANK30」はここが日本であるということを忘れさせてくれる、非日常の空間でした。
「対話を大切にする」というお二人の息の合った掛け合いを拝見し、お二方の信頼関係があってこそ生まれた設備だと感じました。新感覚のエンターテインメントレストラン「BANK30」に皆様もぜひ足を運んでみてください。
取材にご協力頂きました河合様並びに平田様には、この場を借りて御礼を申し上げます。
2020年12月、竹芝のニューランドマーク「アトレ竹芝」内に新たなエンターテイメントスポット「BANK30(バンクサーティー)」が誕生しました。アーバンラグジュアリーをテーマに、上質なお酒とお食事、洗練されたアートパフォーマンスとDJセレクトによる音楽を、ウォーターフロントのロケーションで楽しむことができる「BANK30」。
導入いただいたPowersoft、Symetrix、Luminexはすべてネットワーク化されており、入力からDanteでシステムアップされています。「BANK30」のCEO 河合氏と、店舗の音響デザインを担当された株式会社カエルワークス 平田氏に製品と導入についてお話を伺いました。