CASE導入事例
YEBISU BREWERY TOKYO 様

YEBISU BREWERY TOKYOにPowersoft MEZZO、WM Touchが導入
- 事業内容
- ヱビスビール発祥の地で、ヱビスのルーツ・現在・未来にかけるヱビスの唯一無二の物語に触れながら、新しいビールの楽しみ方を発見できる“圧倒的なリアル体験”施設
- 導入製品
- Powersoft社 MEZZO 324A(DSP搭載4チャンネル固定設備向けコンパクトパワーアンプ)、MEZZO 602A(DSP搭載2チャンネル固定設備向けコンパクトパワーアンプ)、WM Touch(タッチパネル)
—2024年4月に開業したYEBISU BREWERY TOKYOですが、こちらの施設が生まれたいきさつを教えてください。
沖井 1890年に、YEBISU BREWERY TOKYOがあるまさにこの場所で、ヱビスビールは誕生しました。ここは私たちの原点ともいえる場所です。1988年まではこの地にヱビスビール醸造所があり、ビールの製造・販売を行っていました。
恵比寿の都市化に伴い、工場自体は一旦千葉に移転しましたが、ヱビスのルーツであるこの地でもう一度ビール造りができる拠点を構え、「もっともっとビールの可能性に挑戦する場所をつくりたい」という思いから、このYEBISU BREWERY TOKYOが生まれました。

「ブルワリーエリア」ビールの原材料や、ドイツ製の醸造設備でリアルタイムに造られるビールを五感で楽しめる空間
—YEBISU BREWERY TOKYOではどういった体験ができるのでしょうか。
沖井 わたしたちはYEBISU BREWERY TOKYOを、ヱビスの過去、現在、未来が楽しめる「圧倒的なリアル体験」拠点と位置づけており、大きくわけて3つのエリアから構成されます。
まずは「ミュージアムエリア」。こちらは元からあったヱビスビール記念館の機能を引き継いだもので、ヱビスビールが重ねてきた130年以上に渡る歴史【過去】を知ることができる、まさに博物館といえるエリアです。
次に、リアルタイムでビールが醸造されている「ブルワリーエリア」。このエリアでは【現在】進行形で作られているビールを間近で感じることができます。
そして3つめが「タップルームエリア」。通年で提供される「ヱビス∞」と「ヱビス∞ブラック」を中心に、そのときどきの限定ビールを楽しむことができるこのエリアでは、ビールって、ヱビスって、まだまだ面白いなと、ヱビスの【未来】を感じ、物語を味わっていただける空間になっています。

黄金に光り輝く大窯。店内の雰囲気が特別なひとときを演出してくれる
—オープンにあたり、今までと大きく変わった点はありますか?
沖井 私たち視点で言うと、ここで実際にビールが造れるようになったことが一番の変化ですね。お客様にとっても、ここでしか楽しめない限定のヱビスを味わっていただけるという点が、体験としても大きく変わったところだと思います。
オーディオブレインズ こちらではどのようなビールが楽しめるのですか?
沖井 通年で提供される「ヱビス∞」と「ヱビス∞ブラック」というフラッグシップビールは、35年以上前に恵比寿工場で使用していたヱビス酵母を復活させ、1890年のヱビスビール誕生当時に使われていたとされるドイツ産のファインアロマホップと組み合わせて醸造しています。かつてのものを使って、今だったらどれだけ美味しくできるのか、ということに挑戦しています。
オーディオブレインズ 当時に思いを馳せながら味わうビール、とてもロマンチックですね。こちらでしか楽しめないビールとのことですが、好評で実際に全国発売になったビールもあると伺いました。
沖井 開業時の記念ビールとして発売された「煙々(えんえん)」という燻製麦芽を使ったビールが、ブラッシュアップされて「燻(いぶし)」という名前で9月から期間限定で全国発売になりました。ビールと言えばホップが注目されがちですが、使用する麦芽によってもさまざまな表情を見せてくれます。

限定販売のヱビス クリエイティブブリュー「燻(いぶし)」。取材当日、早速お店で探し求めて美味しくいただきました。
—「味」はもちろんのこと、どのようなシーンにも馴染む内装やインテリア、そしてこの場所で流れている「音」に関して、細やかな気遣いが感じられます。Mood Media Japan様に依頼されるきっかけはあったのでしょうか。
田中 第一に、空間の上質・洗練というキーワードがありましたので、そういった雰囲気を表現するための音楽をどうやって選んだらいいのだろうと悩んでいる時に、編曲と選曲を組み合わせた音楽デザインに加え、音響システムをご提供されるMood Media Japan様をご紹介いただきました。
「曲によってその場の雰囲気がガラリと変わる」というデモを実際に体験させていただいたのですが、こういった雰囲気にしたい、という私たちの要望にきめ細かに応えていただける点が魅力的で、お願いすることになりました。
オーディオブレインズ 「ヱビス」というブランドにはしっとりした大人なイメージがあったのですが、エントランスに入った瞬間聴こえてくる少しアップテンポな曲が、気持ちをワクワクと高揚させてくれるように感じました。
田中 エントランスで初めに聞こえる音楽は、CMなどでも耳なじみのある「第三の男」がやっぱりいいよね、という皆の一致した思いがありました。ただYEBISU BREWERY TOKYOは、ビールの可能性を感じていただける拠点、という大きなテーマがありましたので “高級ホテルのような”というよりは、次の100年への期待を感じていただける曲調をお願いしました。
「ワクワクするような」と仰っていただけるのは、まさにそういった雰囲気に仕上げていただけたのだと思います。

来場のタイミングによっては、醸造を担当するChief Experience Brewerと直接交流することもできるというマスターブリュワーズルーム
—音楽的・設備的な観点から、エントランスはどのように設計されているのですか?
柴崎 今回エントランス部分では、先ほどお話に出た、アントン・カラス作曲の「映画『第三の男』より~ハリー・ライムのテーマ」を、中央とサイドでそれぞれ異なるパートに分けて流すという新しい試みを行っています。
オーディオブレインズ どういった意図があり、音源が二つに分かれているのでしょうか。
柴崎 サッポロビール様のほうで、中央を通って施設に入り、帰りはサイドを通って帰るという導線を考えていらっしゃったので、来場された方の意識が自然と中央に向くようにと考えました。そこで入り口から一直線にスピーカーを設置し、最終的に中央の踊り場に辿りつくような音の導線を作りました。
入場時は中央から聴こえてくる楽しげな旋律に興味を持っていただき、帰りは行きと違った雰囲気を感じる、という行き帰りとで異なる体験を通じてブランドの多様性を感じ取っていただけるようになっています。

—「次の100年への期待を感じていただける曲」とのことですが、具体的にはどのようなご要望があったのでしょうか。
柴崎 「ヱビス」というブランドが持つ一般的なイメージに対し、もっと幅広い世代の方々に様々なシチュエーションで楽しんでいただきたい、といった思いを事前にお伺いしましたので、重厚な雰囲気ではなく、軽やかさを音で表現することを心掛けました。
ただ、お持ちの歴史やブランドイメージは素晴らしいものがありますので、その良さを大切にしながらも、裏付けがあるからこそできるチャレンジ、というバランス感を音楽で表現しようと考えました。ヱビス様は内装やブランディングにも細かいこだわりを持っていらっしゃったので、それを音楽に落とし込んだ形ですね。
オーディオブレインズ ミュージアムのほうはいかがですか?
柴崎 ミュージアムではハリー・ライムのテーマの伴奏トラックのみを流しており、一見するとエントランスとは異なる曲のように聞こえるかもしれません。
オーディオブレインズ メロディ部分を抜いているのはどういった理由があるのですか?
柴崎 この曲はメロディーラインが強いため、その部分に意識が引っ張られてしまわないようにという意図があります。ヱビスの世界観を感じつつも、ミュージアムでの体験に集中していただけるような雰囲気作りを目指しました。空間にふさわしい、良いバランスを表現できたと思います。

「BEER is JOURNEY」130年以上続いてきた唯一無二のブランドルーツを旅するように楽しめるミュージアムエリア
—音響的な課題はありましたか?
沖井 施設が広く音が響くので、以前ここで音楽イベントをやったときは反響が大きく、音とは相性が悪いのだと思っていたのですが、全然そんなことないですね!今回音響システムをデザインしていただき、音楽は体験をより印象に残すためにも重要だなと改めて感じました。
柴崎 天井が高く解放感があるため、お客様も反響を気にされていました。また各ゾーンに壁がないので、どうしても音が混ざってしまう点をいかにして克服するか、というところが今回一つの挑戦でした。そこで、なるべくストレスにならない混ざり方で「なんとなくあそこから楽しそうな音が聞こえてくるな」と感じていただけるような音の響きを狙って設計させていただきました。
設備的な対策でいえば、天井約8mの高さに設置されていたスピーカーを3.5m程度まで下げて、なるべく意図しない方向に音が広がらないよう綿密に設計することで、ある程度クリアできたかなと思います。どうしても低音が変に反響してしまうところは、今回採用したPowersoft「MEZZO」アンプのDSP機能を使って、音が回りやすい帯域を削って調整しています。
音をコントロールすることで、不快な反響が抑えられていると思います。エントランス部分の音の遅延には、「MEZZO」に備わっているディレイ機能を活用しました。

レストランなどでも導入実績の多いハーフラックサイズの設備用パワーアンプMEZZO
—各エリアの音響操作を自由自在に行える専用のゾーンコントローラ「WM Touch」を導入いただきましたが、使い心地はいかがですか。
沖井
タッチパネルがすごく使いやすいです!
機械に詳しくなくても誰でも簡単に操作ができますし、また最適な音のパターンを事前にいくつか登録していただいたので、例えば人が大勢集まる時には音量を上げたり、イベント時には特定のエリアだけ音を抑えたりと柔軟に調整でき、とても便利に使っています。
柴崎 今回のように音楽がゾーン分けされている場合は特に、従来のアナログつまみだとお客様が混乱してしまって、操作が難しい場合があります。また導入当初は問題なくても、担当者様が変わることにより正しく引き継げなくなることがよくあるのですが、「WM Touch」にプリセットを作って入れておけば一目両全で、音量をいじってしまったとしても元に戻せるため、オペレーション上での混乱を防ぐことができます。みなさまには苦手意識なく、積極的に使っていただけているようで嬉しいです。
音響調整の音量振り合わせの際も、わざわざアンプ本体を触ってつまみを上げたり下げたりといったことがなく、「WM Touch」の画面を見ながらその場でプリセットを組むことができたので調整もとても楽でした。

各エリアの音響操作を自由自在に行える専用のゾーンコントローラ「WM Touch」
—アンプに「MEZZO」を選んでいただいた理由を教えていただけますか。
柴崎 今回、2チャンネルと4チャンネルの「MEZZO」アンプを採用しました。普段私たちが手掛けているBGMの規模だと、アンプがオーバースペックになりがちで、その分価格も高くなってしまうことが多いのですが、「MEZZOシリーズ」はワッテージやチャンネル数、そして価格もバランスがとれていて、BGM用途にぴったりだなと思います。
また、DSPプロセッサーとアンプを別々に用意するとシステムが複雑になり、その分故障リスクも増えてしまうのですが、「MEZZO」を一台導入すれば、音響調整も可能で、かつコントロールが一元化できるため、設計面でも安全性が高くなります。お客様にとっても機材が少なくなることでコスト削減に繋がり、大きなメリットだと思います。さらにハーフサイズの機材は、今回のようにスペースが限られているレストランなどの施設では特に便利ですね。
オーディオブレインズ ありがとうございます。「MEZZO」は省エネで発熱が少ないため、狭いスペースでも安心してご利用いただけるとご評価いただくことが多いです。
柴崎 排熱が少なく熱のモニタリングができる点は、保守の観点からも嬉しい機能だと思います。以前はアンプから出ている熱が正常なのか、納める際に不安があったのですが、Powersoftであれば、パソコンをつないで大丈夫か判断できるので、わたしたちも自信をもって納品させていただくことができます。
オーディオブレインズ 「ヘルスプラス機能」もお使いいただきありがとうございます。
柴崎 実はこの広い会場対して、すごく少ないアンプで駆動しています。従来のアンプであれば、導入いただいた機材の恐らく四倍ぐらいのサイズが必要だったと思います。
沖井 そうなんですか?そこは知らずに(笑)ありがとうございます。
オーディオブレインズ パワーアンプは車でいうエンジンの部分にあたり、普段目立たない存在なのですが、このような素敵な場所にご採用いただけて光栄です。イタリアのメーカーも「ヱビスビール知ってる、行きたい!」と申しておりました(笑)
田中・沖井 是非!

—PowersoftのDMD機能を使っていただいて、どのようなご感想を持たれましたか。
柴崎 設計していて便利だなと思うのが、音源数とゾーニングがまだ固まっていない段階でも、とりあえず機器だけ確定しておいて、あとからどうにでも分配できるといった考え方ができるのは非常に嬉しいなと思います。「MEZZO」のアンプさえ入れておけばある程度は大丈夫で、予算取りが先行できるというのはお客様にとてもメリットだと思います。
このような音響システムを導入するには、通常頭脳となる外部DSPなどの機材が別途必要なのですが、「WM Touch」をシステムに組み込むことで専用の集中管理システムが不要になり、低コストで柔軟に構成できる点がとてもありがたいです。
※DMD (Dynamic Music Distribution):外部DSPを使用せずに「MEZZO」に内蔵されているDSPとDanteデジタル音声伝送機能を駆使することで、ネットワーク内にある複数の「MEZZO」に対して同じ音源を共有することができる機能
オーディオブレインズ インテグレーター様目線の貴重なご意見ありがとうございます。

音楽デザイン並びに音響システムデザインをご担当されたMood Media Japan株式会社 柴崎大和氏
—実際に運用が始まっていかがですか?
沖井 恵比寿駅から徒歩5~6分という立地もあり、お仕事や買い物帰りにふらっと立ち寄っていただけるので、20~30代の若い方が本当に多いですね。「YEBISU BREWERY TOKYO」は入場無料でご利用いただける施設ですが、「YEBISU the JOURNEY」という有料のツアーも大変人気で、ツアーに参加してから飲むとビールがさらに美味しく味わえると好評です。
反響を心配していましたが、音がマイルドに聞こえますし、音質もすごく良くなりました。お客様の一連の体験の中で、良い記憶に残ることに繋がっているのではないかと思います。
現在、醸造家の有友が中心となって「Beer is ○○」をテーマに、様々な解釈をしながら新しいアイデアを続々と生み出しているのですが、この場所を活用して、まだまだできることがあるはずだと感じており、これからの展開にワクワクしています。

YEBISU BREWERY TOKYO限定グッズの販売も(かわいい!)
柴崎 百年以上の歴史を持つブランドだからこその新たな挑戦や、しっかりとした裏付けがあるからこそ実現できる「遊び心」を音楽に込めたご提案をさせていただきました。ヱビスブランドの本質や、この場所が持つ役割、そして目指すべき方向性についても深くお話を伺い、お客様のコンセプトを音楽に反映させることで、ブランドの世界観とマッチした音響システムが出来上がったと思っています。
夏のビアガーデンの際にも音楽のご依頼をいただき、音に関してご満足いただいているのではと思います。やはり良い音響があってこそ、音楽についてもご満足いただけると思います。普段、お客様には見えない部分のアンプに対して「あのアンプが素晴らしい」というコメントをいただくことは少ないのですが、総合的にご評価いただいている陰にはアンプがあるのかなと思います。
オーディオブレインズ 最後、アンプにつなげていいただきありがとうございます(笑)ビールをいただきに必ずプライベートでも訪問させていただきます!

左から:オーディオブレインズ 山田、Mood Media Japan株式会社 柴崎様、植木様、Powersoft Japan 村山様
編集後記
取材当日は恵比寿ガーデンプレイスの冬の風物詩、バカラシャンデリアの点灯式直前。時計広場にはビックツリーが設置され、街がキラキラと輝いていました。
わくわくした気持ちでエントランスを抜けると、そこは別世界…!黄金色の醸造釜と奏でられる音楽が、特別な世界へと導いてくれました。こんな素敵な空間で、弊社の製品が裏方としてお役に立てていることを大変嬉しく思います。
取材にご協力頂きましたサッポロビール株式会社 田中様、沖井様、Mood Media Japan株式会社 柴崎様には、この場を借りて御礼を申し上げます。
2024年4月に開業したYEBISU BREWERY TOKYOに、Powersoft社のDSP搭載固定設備向けコンパクトパワーアンプ「MEZZO 324A」「MEZZO 602A」と、店舗BGMの管理に最適な4.3インチのタッチパネル「WM Touch」を導入いただきました。
YEBISU BREWERY TOKYOを運営するサッポロビール株式会社 マーケティング本部 田中章生氏、沖井尊子氏の両名と、今回のプロジェクトの音楽デザイン並びに音響システムデザインをご担当されたMood Media Japan株式会社 柴崎大和氏にお話を伺いました。本記事は、弊社スタッフとの対談内容を再現したものです。