CASE導入事例

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」 様

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」にMartin Audio、KGEAR、Powersoftが導入。SoVeC株式会社と株式会社ユニオンサウンドシステムが最新のイマーシブ音響システム制作の裏側を語る。

導入製品
【Martin Audio】CDD-WR 10インチ×5台、8インチ×2台、6インチ×9台(防滴スピーカー)、SX118×1台(サブウーファー)
【K-array】KGEARシリーズ GH8×7台(全天候スピーカー)
【Powersoft】Unica 8M 4K8×1台、Unica 8M 2K8×1台(パワーアンプ)
【NETGEAR】GSM4212P×2台(ネットワークスイッチ)

ムーミンバレーパーク内の「エンマの劇場」は、リニューアルにより映像・音響・照明が融合した没入型シアターへと進化しました。物語の世界観を空間全体で体験させるこの施設では、Martin Audio、KGEAR、Powersoftなどで構成される音響システムが重要な役割を担い、臨場感あふれる演出を支えています。

今回、こうした没入型体験を実現する音響設計に携わったSoVeC株式会社の八木氏、古賀氏、布沢氏、そして株式会社ユニオンサウンドシステムの町田氏に、設計のポイントやこだわり、そして弊社が取り扱う音響機器の導入背景についてお話を伺いました。ムーミンの世界を“音”でどのように表現したのか、その裏側に迫ります。

【『音が体験の印象を決定づける』という共通認識】

—今回の導入に至った背景と経緯について教えてください。

SoVeC 八木  ムーミンバレーパーク様とは、これまで音声ガイドや季節イベント、夜のパレードなどで弊社の音響ソリューションをご採用いただいてきました。そうした複数のプロジェクトを通じて継続的にご一緒していく中で、音響に対する考え方や現場での課題意識を共有しながら、システム設計を行ってきた経緯があります。

その中で特に印象的なのは、ご担当者や演出家の方々が一貫して「音が体験の印象を決定づける」という考えを持たれている点です。視覚的な演出だけでなく、音によって空間全体の印象や記憶が形づくられるという意識があり、実際の演出づくりにおいても音が非常に重視されています。こうした考え方は、これまでのプロジェクトの中でも共通認識として共有されてきました。

そのような背景のもと、今回の全天候型「エンマの劇場」リニューアルプロジェクトでも、システム設計を担当させていただくことになりました。

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」
ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」 ステージ

—具体的にプロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか?

SoVeC 古賀  最初は図面と演出イメージの共有からスタートして、そこからスピーカーの配置や機材選定に入っていきました。やはり時間をかけたのは配置で、キャラクターがどこで演技してもセリフがしっかり届くように、ステージ前面に5基のスピーカーを配置する「フロンタル5」をベースにしました。

この劇場はステージだけでなく客席も含めて空間全体が演出の一部になるので、外周にもスピーカーを配置して、全体を包み込むような設計にしています。約240名規模を想定して、どの位置でもしっかり体験できるようにバランスを詰めていきました。

SoVeC 八木  機材選定やチューニングにおいては、音響単体ではなく、照明や映像も含めたシステム全体を俯瞰した設計が不可欠でした。そのため、各要素を横断的に捉えながら最適な構成を提案・構築できる体制に魅力を感じ、株式会社ユニオンサウンドシステムの町田様に依頼しました。

結果として、Martin Audio、KGEAR、Powersoft の組み合わせにより、空間全体として高い完成度を実現することができました。音・光・映像が有機的に連携することで、来場者が自然に没入できるイマーシブ体験へとつながっていると感じています。

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」ステージ左

【『あえて音を重ねる』ことで生まれる立体感】

—機材選定や設計で重視したポイントはありますか?

UNION 町田  まずプロジェクト初期の段階で印象的だったのは、最初に提示されたスピーカー配置プランが、この劇場の空間特性にとてもよく合っていたことです。そこが評価されたうえで、「では具体的にどのスピーカーを使うか」という機材選定に進んでいきました。

今回の検討では、これまでの運用や予算とのバランスを踏まえつつも、「いかにイマーシブな体験を実現するか」を大前提にしています。一般的な音響設計のようにエリアごとにきっちり音を分けるのではなく、あえて音が重なり合うように設計することで、空間全体に包み込まれるような体験を目指しました。複数のスピーカーからの音が交差することで、より自然で立体的な音場を作りやすくなるんです。

そうした考え方のもとで採用したのが、広いカバーエリアとコストパフォーマンスを兼ね備えたCDDシリーズです。さらに今回はテント型の半屋外空間という条件もあり、結露や夜露への対策として防水仕様のCDD WRを選びました。

スピーカーの選定に合わせ、それらを最適に駆動させるアンプも自然な流れで決まり、信頼性と実績を誇るPowersoftの最新プラットフォーム、UNICAを採用しました。

またコスト面では、すべてを新規で揃えるのではなく、既存設備も活用しました。これまで使用していたスピーカーや8chアンプを一部流用しつつ、必要な部分だけを追加することで、全体としてバランスの良い構成にしています。今回採用したMartin AudioのCDDやKGEARのGH8は特定のアンプに依存しない柔軟性があるため、既存機材と組み合わせやすかったのも大きかったですね。

結果的に、音響性能・環境条件・コストのバランスを取りながら、現実的で高品質なシステムを構築することができました。

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」ステージ

—スピーカー選定のポイントを教えてください。

UNION 町田  スピーカー選定では、それぞれの特性を活かした“適材適所”の組み合わせを意識しました。

メインとなるMartin AudioのCDDシリーズは、高域までしっかり伸びる広いカバレージが特長で、実際の聴感としても「広く自然に届く」使いやすさがあります。今回のように空間全体を包み込む演出では、この広がりが大きなメリットになりますし、非対称カバレージによって、壁面や客席に向けた音の広がりもコントロールしやすいんです。

一方、天井にはKGEARのGH8を採用しています。こちらは円錐状に音が広がるタイプで、真下に向けても均一に音を届ける用途に適しています。梁への設置といった施工条件も考慮しつつ、取り付けやすさと音の均一性を両立できる点が決め手でした。

Martin Audio CDDシリーズ「CDD-WR」

Martin Audio CDDシリーズ「CDD-WR」

KGEAR「GH8」

KGEAR「GH8」

UNION 町田  “狙って届ける”CDDと、“均一に広げる”GH8を組み合わせることで、空間全体の音場を最適化しているのが今回の特徴です。

低域の音表現についても入念にシミュレーションを重ねました。設置性やコスト、音の干渉などを総合的に判断した結果、センターにSXサブウーファーの18インチ1台を選定しました。ここで効果を発揮したのがPowersoft UNICAの「パワーシェアリング機能」です。

チャンネル間で柔軟に電力を配分できるため、必要な場面でしっかりパワーを供給できます。専用の高出力アンプを用意しなくても十分な低域表現が可能になり、システム全体のバランス向上にもつながりました。

Powersoft「UNICA 8M」

Powersoft「UNICA 8M」

—チューニングで特に苦労したこと、印象的だったことはありますか?

UNION 町田  一番大きなテーマは、「何を基準にチューニングするのか」という点でした。これはイマーシブ音響全般に共通する難しさだと思います。

従来のLRシステムであれば、左右からどれだけ適切に音圧を出せるかが基準になりますが、今回の演出は音源そのものが空間内を移します。例えば音が円を描くように動く場合、CDD10からCDD6へといった具合に、複数のスピーカー間で音がリレーされていきます。そのときに音量や音質の変化を感じさせないようにする必要があり、ここはかなり神経を使いました。

天井に設置されたGH8についても同様で、音のムラを出さないようにしつつ、異なる特性のスピーカー同士の表現力の差まで考慮する必要がありました。このバランス調整はとても繊細でしたね。

そのため、ステージ用とイマーシブ用で音源自体を分け、それぞれに最適なチューニングやルーティングを施すという、用途ごとに最適化するアプローチを採りました。

印象的だったのは、設計段階では予定になかった中央花道で主要キャラクターが演じることになった場面です。想定外のシチュエーションでしたが、いざその天井スピーカーの真下で主役がセリフを話すと、天井のGH8がしっかりと定位を担ってくれ、その再現力には驚きました。もちろん理想を言えば余裕を持たせた設計も考えられますが、制約の中で見出した最適解が、こうしたイレギュラーな演出にも柔軟に応えてくれたと感じています。

最終的には、「どの位置に音源が来ても成立する」ことを重視しました。前後・左右・上下、どの方向でも破綻しない体験を目指しています。

またLRの考え方も従来とは異なり、単純な左右再生ではなく、ステージ奥にバーチャルなステレオポジションを作り、複数のスピーカーでLR感を演出しています。

今回のチューニングは、従来の「左右で成立させる音響」から、「空間全体で成立させる音響」へと発想を切り替える必要があった点が、最も大きなポイントでした。

Martin Audio

Martin Audio CDDシリーズ

【観客を物語へ誘う『音の仕掛け』】

—どのような音響表現を意図されたのでしょうか?

SoVeC 布沢  「どこにいてもちゃんと聞こえる」というのは絶対に外せないラインでした。なるべく場所によって聞こえ方に差がないようにチューニングしていきました。そのうえで、今回はもう一歩踏み込んで、空間全体を使った体験を作りにいきました。

象徴的なのは、ナレーションをあえて客席側から流したことです。これにより観客が物語の中に入り込むような感覚をつくり、自然に視線をステージへ誘導しました。キャラクターが「どこにいるか」を音で感じられるようにステージ前後の表現や高さも考慮して設計しました。演出家の方からも「音の前後関係がしっかり分かる」と評価いただき、お客さんも音の方向に自然と反応されていて、狙い通りに機能しているなと実感しています。

また、寺坂波操株式会社によって開発された音響システム「vaud」が持つ「リアルタイム性」と「インタラクティブ性」も大きな強みです。直感的に調整を行いながら試行錯誤を重ねることで、短期間でも最適な音響表現に近づけています。

その場の状況に応じてリアルタイムに生成・変化させることができ、鳥のさえずりも毎回異なるタイミングや位置で再生され、空間に自然な揺らぎを生み出します。不規則に見えるスピーカー配置も、個別制御と立体音響レンダリングにより、自由度の高い定位や滑らかな音の移動表現を実現しました。

こうした仕組みにより、空間・演出・体験が一体となった、より没入感の高い音響体験が実現されています。

ムーミンバレーパーク「エンマの劇場」ルーフ

—導入後の反応はいかがでしたか?

SoVeC 八木  演出家の方からは「屋外の劇場型施設で、これほど多くのスピーカーを使ったリッチな音響環境は他にない」との高い評価をいただきました。

実際、今回のリニューアルによって構築された音響システムは、実に密度の高い設計となっており、空間全体を包み込むような音の体験が可能になりました。

これまで長らく抱えていた「演出意図としての音が思ったように届かない」といったもどかしさが解消され、演出側が本来やりたかった表現がようやく実現できる環境になったという手応えを感じています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!