CASE導入事例

CÉ LA VI TOKYO 様

CÉ LA VI TOKYO

音は見えにくいのですが、空間を支配するものです。その“音”を大事と思って下さるお客様の期待に応えられる仕事がしたいと常々思っています。

事業内容
ミクソロジー×音楽×料理を軸にした総合エンターテインメントレストラン
導入製品
Luminex社 スイッチ、Martin Audio社 スピーカー、Powersoft社 パワーアンプ、SoundTube社 防水スピーカー、Symetrix社 タッチパネル

2019年12月5日、渋谷フクラスと名前を新たに、東急プラザ渋谷のルーフトップである17階・18階に「CÉ LA VI TOKYO」がオープンしました。
CÉ LA VIはシンガポールの五つ星ホテル「マリーナベイ・サンズ」最上階のレストランとして知られており、CÉ LA VI TOKYOはそんな世界的レストランブランドの国内第一号店としてオープンしました。
常に東京カルチャーを牽引してきた渋谷というロケーションで、カフェバーとして利用したり、渋谷の夜景とDJパフォーマンスを楽しんだり、高級感あふれる空間のファインダイニングでお食事とお酒を味わうことができます。
700坪という広大な店内の音響デザインを担当された、株式会社エンター・サンドマンの代表取締役 土橋氏にお話を伺いました。

—音響デザインにあたり、お客様からはどのようなご要望がありましたか?

土橋 大きくは三つ「専有エリア3区画すべてをつなげたい」「個別・貸し切りどちらにも対応できるレストランを作りたい」そして何より「渋谷の再開発の一環として、CÉ LA VIブランドとして恥ずかしくないもの、東京にふさわしく“かっこよいもの”を作って欲しい」というご依頼でした。

クオリティを維持しながらも、デザイン性が高く安定性と操作性に優れたものを作る、ということを設計当初より念頭に置いていました。レストランという形態上、機材の操作をされるのは音響機器に詳しいスタッフばかりではありません。どなたでも使いやすく、また安定性のある音響設備の構築を目指し、一年に渡るプロジェクトがスタートしました。

CÉ LA VI TOKYO

渋谷を一望できるCÉ LA VI TOKYO

—各フロアの特徴と、使用されている機材について教えてください。

土橋 渋谷フクラスの2フロアを贅沢に使った店内は、3つのエリアに分かれます。17階にはナイトクラブ「CÉ LA VI CLUB LOUNGE」とカジュアルダイニングの「BAO by CÉ LA VI」、18階にはファインダイニング「CÉ LA VI RESTAURANT & SKY BAR」があります。

17階にあるナイトクラブ「CÉ LA VI CLUB LOUNGE」では、フロア全体が各種Martin Audioスピーカーで統一されています。メイン用にTHVとSXH218を組み合わせ、補助用にCDD15とSXF115、DJモニター用にLE100を、VVIPルームにはCDD12を採用しました。「CÉ LA VI CLUB LOUNGE」は、全面ガラス張りで渋谷の夜景を一望することができるのですが、システムを組むにあたりガラスの反射には非常に気を使いました。

まずはAFMG社のEASE/EASE Focusで、ガラス素材になるべく当たらないよう音響をシミュレーションし、目的に合わせてMartin Audio各種スピーカーを配置しました。設計段階でしっかりとシミュレーションしたことで、歩戻りの少ない工程管理を実現することができました。

CÉ LA VI TOKYO

フロア全体がMartin Audioスピーカーで統一されたナイトクラブ「CÉ LA VI CLUB LOUNGE」

土橋 17階のカジュアルダイニング「BAO by CÉ LA VI」は、店内では座ってお食事を楽しむことができる一方、テラス席はまるでクラブのような雰囲気の中、スタンディングで体が動かせることをコンセプトとしたレストランです。

同じ17階にある「CÉ LA VI CLUB LOUNGE」と連動してイベントを行うこともあるため、店内には天井高に合わせてMartin AudioシーリングスピーカーC4.8TとC6.8Tを組み合わせ、テラス席にはCDD12をメインとしてCDD8を補助用に、SX118で全帯域に低音を拡張しています。抜けが予想されるエリアにはCDD6を使用し、クラブと同じMarin Audioサウンドで統一しています。

CÉ LA VI TOKYO

カジュアルダイニング「BAO by CÉ LA VI」ではMartin Audioシーリングスピーカーが採用

土橋 18階のファインダイニング「CÉ LA VI RESTAURANT & SKY BAR」では、座ってお食事をしながら音楽を楽しむということを前提に、Martin AudioシーリングスピーカーC4.8TとC6.8Tを適切に配置し、音抜けがないよう設計されています。またDJブースが常設されている屋外のテラス席には、IP等級も十分なSoundTubeの防水スピーカー SM82-EZ-IIを設置しています。

CÉ LA VI TOKYO

SoundTubeの防水スピーカー SM82-EZ-II

—CÉ LA VI CLUB LOUNGEで、ホーンローデッド式のスピーカーを選択されたのはなぜですか?

土橋 今回、日本のクラブでは初となる、Martin Audioのホーンロードメインスピーカーとサブウーファーの組み合わせをチョイスし、音に特徴付けをしています。

元々Martin Audioのパンチがありながらも解像度が高く、安定感のある音が好きで使用することが多かったのですが、各社のスピーカーをデモし音の広がりをチェックした上で、トータルのバランスの良さから最終的にMartin Audioの採用を決めました。また足りないところを補完するという意味で、フロアのスピーカーにはMartin Audio最先端の技術が駆使されたCDDシリーズを用い、CÉ LA VI全体の音のキャラクターに一体感を演出しています。

CÉ LA VI TOKYO

日本のクラブでは初となるMartin Audioのホーンロードメインスピーカーとサブウーファーをチョイス

土橋 Martin Audioは筐体デザインに周到なこだわりを持ち、好みがあるとは思いますが、電気補正に頼らず木の特性を生かしたアコースティックサウンドに定評があるメーカーです。アレータイプのスピーカーもプランに挙がりましたが、最終的にクラブらしさを最大限に演出する目的でポイントソースシステムを採用しました。

実は設計段階で、全帯域ホーンロード制御された3wayという特徴的なスピーカー THVがリニューアルされたという情報が入りました。さらにサブウーファーもホーンロード制御のダブル18インチ SXH218を採用することで、全帯域をロードで制御するというCÉ LA VIにしかない、圧倒的な音場演出を実現することができました。そしてフロア全体を高品位にカバーするため、最先端のCDDを補助スピーカーとして採用しています。

同軸構造の利点を最大限に保ちながら、特徴的な指向特性をもって全帯域を安定した音質で維持する技術は、さすがMartin Audioだと思います。

CÉ LA VI TOKYO

フロア全体を高品位にカバーするため最先端のMartin Audio CDDシリーズを補助スピーカーとして採用

—採用されたデジタル伝送による、IPネットワークについて教えてください。

土橋 コンソール、プロセッサー、パワーアンプまですべてをDanteで完結しています。階をまたいだテナント専有・共用の合計5区画を連携するため、区画ごとにLuminex社製のL2スイッチをMMFまたはCAT6で接続しています。

レストランは朝の11時~24時まで、クラブは夕方の6時から朝の5時までオープンしており、アイドルタイムがほとんどありません。プライマリ、セカンダリのバックアップに加え万一ネットワークの事故が起きても区画内には音が出せるよう、パワーアンプはDante信号を失ってもシームレスにアナログ入力に切り替わるように冗長化されたシステムになっています。

すべての機器に固定のIPアドレスを割り振り、トラブルが発生した場合にも同じIPアドレスの代替え機に入れ替えれば、すぐに元に戻るような仕組みづくりをしています。

—このような施設をネットワーク化するメリットは何だと思われますか?

土橋 まず第一に“安定性”が挙げられると思います。私は設計の際、安定性と操作性そして拡張性を常に頭に入れてシステムを組むようにしているのですが、リダンダントがとれるという安定性、そしてDanteで音を流したいといったお客様からの急な要望にもすぐに対応できるといった拡張性の面からも、Danteの採用を決めました。システムがネットワーク化されていることにより一元監視することができ、トラブルがあったときに何が悪いのかを、PC上ですぐにチェックすることも可能になりました。

また一般のスタッフの方が操作するため、なるべくシンプルな操作で済むよう、操作パネルにはグラフィカルで分かりやすいカスタム画面をSymetrix社のT5タッチパネルで構築しています。各音源の切替えは、このタッチパネルですべてが完結します。

そして次に“事前に準備ができること”が大きな利点として挙げられると思います。今回のオープンにあたり準備期間は一年と長かったのですが、工事期間は非常にタイトでした。そのためオフラインでデータを予め作成し、機器を仮組みして流し込むことで、現場では機材を接続しオンラインにするだけで済み、作業時間の短縮になりました。

Symetrixのタッチパネルに関して言えば、以前のようなアナログシステムの場合、要望に応じてハードウェアを都度追加してワイヤリングをするといったように、追加出費と手間が必須でした。しかしネットワーク化により、機能を追加したければ事務所で用意したプログラミングデータを流すだけで完了。費用をかけずに自由に追加機能を画面上に拡張することができ、このような作業時間に制限がある現場では非常に有効です。また将来的にもトレンドや使い勝手に合わせて更新できるというのが、ネットワーク化の強みだと思います。

ライブサウンドではすでにDanteが主流になっており、こういった施設でもこれからどんどんネットワーク化が進んでいくと思います。実際改装の案件がある場合、弊社では積極的にネットワーク化を進めるようにしています。

CÉ LA VI TOKYO

グラフィカルで分かりやすいと現場のスタッフからも好評のSymetrix T5タッチパネル

—機材を制御しているソフトウェアについて教えてください。

土橋 Powersoft社のArmoniaPlusを採用しています。ArmoniaPlusはパワーアンプを制御するソフトウェアなのですが、パワーアンプだけでなくスピーカー描写をPC上でグラフィカルに確認することができ、フロアで何が起こっているかを一元的に監視・調整することができます。

またグループを組んで制御するなど、その場に合わせた柔軟な対応が可能です。今回はArmoniaPlusを使用し裏側で堅牢なシステムを組み、Symetrix社のタッチパネルで分かりやすく操作性の良いシステムを組むことができました。

クラブに関して言えば、マトリックスでアサインを分けています。お客様の入りにより音のルーティングを自由に変更したり、エリアごとのチューニングをすることができます。またインピーダンス値をリアルタイムで監視することができるため、おかしな系統があればすぐに気づいて対処することができます。

CÉ LA VI TOKYO

ArmoniaPlusソフトウェア

—すべてのフロアでPowersoftのアンプが使用されていますが、採用の決め手は何だったのでしょうか。

土橋 ArmoniaPlusの中には元々数多くのプリセットが入っており、プリセットに従って設定し好みにあわせてチューニングするだけですぐに良い音を鳴らすことができます。音質的なところでいうと、Powersoft社のフラッグシップ製品であるXシリーズは抜群の強さがあってクリア、どんなスピーカーを鳴らしても良い音がします。
今回はレストランやクラブといった限られたスペースでシステムを組む必要があり、1Uもしくは2Uという省スペース設計で且つ多チャンネル、またパワーが出るPowersoftが最適だと判断しました。

採用した設備向けのOttocanaliシリーズは、パネル前面の操作箇所を意図的に隠しているため、店舗のスタッフが間違って設定を変えてしまうということもなく、安定性といった面でも大変満足しています。このように多数のスピーカーが仕込まれた広い店舗であっても、Powersoftのおかげで非常にシンプルで直感的なシステムを組むことができました。

CÉ LA VI TOKYO

省スペース設計のPowersoftアンプ

—お客様からは今回の設備に対して、どのような評価がありましたか?

土橋 まず「音をワンタッチで切り替えられる」という操作性に関して非常に喜ばれました。また音質に関して言えば、オープン前にCÉ LA VI本国のエンターテインメント責任者が来日し、音を聴いて一発OKが出るほど気に入って頂くことができました。しかしこれが完成形ではありません。音楽や施設に求められるものにはトレンドがあるので、現在もまだアップデートしている最中です。

—この度の改修を終えての感想をお聞かせください。

土橋 単純に音が良いと言って下さるお客様や、使い勝手が良いといったスタッフの声を聞くことができ、とても嬉しく思います。CÉ LA VIは音に理解のあるお客様で、新しい試みに積極的に挑戦させていただけることが楽しいと感じています。安定性と先進性は元々両立し辛い側面があったのですが、デジタル化することにより、安定感がありながらも常に最新の設備にアップデートできる商業施設が実現しました。

音は見えにくいのですが、空間を支配するものです。その“音”を大事と思って下さるお客様の期待に応えられる仕事がしたいと常々思っています。今回は導入前にEASEで可視化しデータを見ていただいたりと丁寧に進めることで、ご納得いただけるものができたのではと自負しています。

寒い季節も抜けるような渋谷の青空を楽しむことができ、とても気持ちが良いのですが、暖かくなるとまた違った楽しみ方ができると思います。渋谷が一望できるこのようなロケーションはなかなかありません。料理はもちろんのこと、音楽をとても大切にしているレストランがCÉ LA VIです。おもしろい箱ができたと思いますので、美味しい料理と良い音楽を聴きに、ぜひCÉ LA VI TOKYOに足を運んでみてください。

CÉ LA VI TOKYO

エンター・サンドマンのスタッフのみなさま

編集後記

取材中度々「安定性と拡張性」という言葉を口にされていた土橋様。音が良くかっこ良いシステムというだけではなく、その後の運営についても十分考慮し、丁寧に設計されていることがよくわかる取材となりました。

普段何気なく耳にしているBGMですが“音は空間を支配するもの”という土橋様の一言が大変印象的でした。

取材の場をご提供頂きましたCÉ LA VI TOKYO様並びにエンター・サンドマンの土橋様には、この場を借りて御礼を申し上げます。