CASE導入事例
日本映画大学 様
主体的なブームオペレーションへ。録音現場の高音質なイヤモニとしてTelevic Uniteシステムが活躍
- 事業内容
- 日本唯一となる映画学部のみの単科大学。日本の映画産業が低迷していた1975年、映画を志す若者のための学校をつくり、未来の映画人を養成しようと立ち上がった映画界の巨匠今村昌平監督が設立した「横浜放送映画専門学院」を起源とする「日本映画学校」を前身に、2011年4月大学としてスタートを切り、2021年には開学10周年を迎えた。
- 導入製品
- Televic社 Unite TP(送信機)、Unite RP(受信機)、Unite RP-T(トークバック機能付き受信機)、CDS-4/2(充電器)
—若林先生が講師を務める日本映画大学の「録音コース」とはどのようなコースなのでしょうか。
若林 「録音コース」は映像に対して音がどのように関わるべきか、また映画における音響表現の技術と理論を探究するコースです。撮影現場での録音から、スタジオでの整音、加工、最終ミックスまで、映画の音を作るすべてのプロセスを学びます。
プログラムをこなす過程で「機材を授業で見たことがある」あるいは「使ったことがある」ことが増えると、卒業後の現場でもそれが生きてくると考えています。実際自分が学生だった頃は、世の中の最先端なことではなく、ちょっと前のやり方だよね?というようなことを学校で学んでいました。だから私はプロの現場で結構苦労しました。
そんな反省を生かし、今の大学では5.1chサラウンドの作品を作ったり、授業で使用する機材もプロの現場で使われている物を積極的に取り入れて、学生たちが不安なく現場に出ていける環境づくりを心掛けています。
—授業で使われている録音カートを以前訪問させていただいた映画の撮影現場でも見かけました!
若林 実際はもう少し複雑なのですが、基本的にはプロの現場で使われているものと同じですね。授業で使う機材を理解すれば、プロの使用する機材もある程度理解できます。学生たちは長期休暇を利用して、プロの現場に行かせてもらうこともあります。その際に大学での経験が参考になっているようです。
—日本映画大学には活躍されているOB・OGの方々がたくさんいらっしゃいますよね。
若林 様々なフィールドで卒業生が活躍していて、現場に学生を連れていけるときなどには声をかけてくれます。そうやって現場から声をかけてくれるのは、生徒たちのためにも大変ありがたいです。学生たちは少しでも現場を経験すると、本当にすぐ成長します。帰ってきて「こんな現場だった」と友達同士で話すことで周りも刺激を受けているようです。
—今回Uniteを導入頂いた経緯を教えてください。
若林 Uniteを知るきっかけは「録音」という協会誌です。
この雑誌は現場の【今】を教えてくれたり、さまざまな技師さんがどんな機材を使っているのかなどを知ることができます。また新製品の紹介などもあります。自分が協会員ということもあり毎号必ず読んでおります。NHKで実際に働いている方の寄稿などもあるので、映画以外にテレビに関してなど、この協会誌を通して現場の情報を仕入れることも多いです。
以前より弦巻教授(※弦巻裕氏:日本映画大学名誉教授。数々の映画で録音技師を務める。2004年には映画『誰も知らない』で毎日映画コンクール録音賞を受賞)と「学生が現場でマイクを振る時に、マイクの当たっているいないを自分で判断できるぐらい音質の良いイヤモニが欲しいよね」という話をしていました。
今使っているトランスミッターの音質そのものがあまり良くないということで、ワイヤレスC帯の導入なども検討していたんです。そんな時に録音技師の根本飛鳥さんが書かれた、Televicの送受信機を使用し音声をモニタリングしているという記事を読んで、これは良さそうだぞと。調べてみたらこちらの用途とも合うなと思い、問い合わせさせていただきました。
—UniteはDECT 1.9GHz方式に準拠し、またDSPを搭載していますので、非常にクリアな音声通信をライセンスフリーで行うことができるのが特徴です。実際に使用してみていかがですか。
大村 僕が学生の頃は先ほどお話にあったトランスミッターを使用していて、マイクの当たりというよりは技師の指示を聞く、みたいな意味合いが強かったんです。基本的にはマイクが当たっているかどうかの判断はあくまでも録音技師が行う、という状態でした。
今回Uniteでマイクの音を聴いてみて、自分の頃欲しかったな~(笑)と思うぐらい音質が良く、Uniteから掴める情報量が今まで使用していたものに比べて明らかに多いので、純粋にいいなと思いました。
—自分で録っている音声はしっかり聞きたいものですか?
若林 そうですね。ブームオペレーターはマイクブームという長い竿にガンマイクを取り付け、役者を追ってセリフを収録します。通常「マイクの面が当たってないよ」とか「もっとこう振って」と自分の判断ではなく、録音技師の指示でマイクを振る場合が多いのが現状です。教える立場からすると、やっぱりブームオペレーター自身で判断できる人材になってほしいという気持ちがあります。
実は、すごく優秀なブームオペレーターと呼ばれる技術者が日本では足りていないんですね。それはなぜかというと、ブームを持つこと自体すごく力が必要で、非常に疲れるし肉体労働ということ。あとは単純に助手の数が少しずつ減ってきているので、きちんとマイクが振れる人間の総数も減ってきているんです。
私と弦巻教授がこのイヤモニの音質改善を大切だと思っている理由の一つとして、「ブームオペレーターが主体的にマイクを振る」ということが、優秀なブームオペレーターを育成するのに不可欠だと考えているからです。
自分のオペレートするマイクの音を自分で聞いて主体的に判断することで、自身のオペレーティングに自信を持って一技術者として成長してほしいと考えています。そのことが延いては映画界のためにもなるとも考えています。
—ワイヤレスマイクとガンマイクで録った音を先ほど聞かせていただきましたが、全然音が違いました!
若林 やっぱりガンマイクは非常に音がいいです。ガンマイクでしっかり収録できれば、映画の音質向上にすごく寄与すると思います。
そういう意味でも、若い学生たちが主体的にマイクを振っていく環境をなるべく作ってあげたい。現場で若い助手さんたちが主体的にマイクを振る環境を構築してあげることで、業界全体の人材の底上げというか、確保も含めてなんですけど、そういうことにつながっていくのではないかと思っています。
映画界は旧態依然としたところが未だに残っている部分がありますが、そういう点は使う機材が変わることで徐々にスタイルが変わっていき、古い体質みたいなものも変わっていく。働き方改革じゃないですけど、全体の構造が少しずつ変わって今よりもっと良くなっていくのではないかなと思っています。
—ちなみに録音技師にはなるにはどういう過程を経る必要があるのでしょうか。
若林 日本では「録音部」という職業の場合、セカンド(ブームオペレーター)、チーフ(コーディネーター)などを経て録音技師を目指すという形が多いです。
でもアメリカなどでは、ブームオペレーターはずっとブームオペレーターなんですよ。職業「ブームオペレーター」なんです。だからベテランのブームオペレーターだとお金が高いし、駆け出しのブームオペレーターだと値段が安い。要はブームオペレーターっていう技術職なんです。
—現場でもブームオペレーターの在り方についてそういった議論があるのですか?
若林 今日たまたま学校に来ていた卒業生の後輩録音技師も「これ(Unite)いいですね。自分も考えようかな」と好反応でした。自分で主体的にブームオペレーションできる方向にもって行きたいですよね、ということは彼も言っていて。Uniteはそれに寄与してくれる機材じゃないかなと思っていますね。
大村 ブームオペレーターって例えば機材練習と現場でマイクを振っていても、録音技師の判断に頼る形になって、その場では自分で当たりがわからないんです。自分が向けたマイクの音を聞けるのはスタジオに戻ってから。それってフィルム時代みたいですよね。単純にUniteで自分の振ったマイクのあたりが分かることの他に、学生にとってはトライアンドエラーの即効性があるなと思いました。
自分の中でリトライしたり「ここするとこうなるのか」と感覚的にも習得しやすいと思います。結果的に先ほど若林さんが言っていた、ブームオペレーターという職業の「主体的にマイクを振る」という大学に置ける学びの礎を支える機材になるのではと思います。
—「主体的な人材を育てる」という目標にUniteが少しでも貢献できているのであれば、とても嬉しいです。Uniteはもともと工場のガイドツアーで使われることが多いのですが、「こういう使い方もできるのか」と視野が広がった感覚がありました。録音業界の方に知ってもらえるよう、私たちももっと努力する必要があると感じています。
若林 Uniteの持つ機能の認識が広まってくると「あ、ここに組み込めるかも」と録音部の皆さんの中でも利用の幅が広がってくるのではないでしょうか。学生もしくは助手の方たちが自分で主体的に判断できるようになると、仕事が楽しくなって長く仕事を続けられるのではないかなと。人材が残っていく理由のひとつになるのではないかと期待しています。やっぱり受動的な仕事じゃなくて、能動的な仕事の方が楽しいですしやりがいも感じられますからね。
—録音部というお仕事を普段あまり知る機会がないのですが、僕たちが音にまつわる仕事をしていることもあって、とても興味深く拝見しました。技師さんのお仕事の範囲を教えていただけますか?
若林 現場によりますが、日本では非常に幅が広くて、まずロケハンから一緒に同行して、その場所で撮影が可能なのかどうかということの判断をすることもあります。シナリオを読んで、必要があれば撮影前に音楽録りをしたりセリフの収録を行ったりなどもします。現場での助手を確保、仕上げの際仕事を一緒に行う効果部を確保するのも大切な仕事です。それからプロデューサーと相談して機材をどのくらい借りられるかなどを相談するなど、幅広いですね。
基本的には録音を頼まれたということは、「録音の一連の流れに関してはお任せします」ということなので。誰かにお願いする場合もありますが、現場も自分でやって、ミックスしたり最後フィニッシュするところまでがお仕事ということが多いですね。
オーディオブレインズ 仕事の範囲がとても広いんですね!驚きました。
若林 仕上げ作業では芝居に対してどういう風に音をコミットしなければいけないか、またどちらの音を立てた方がいいのかということの選択、またどんな効果音が合っているのかなど、そういったことを相談しながら創り上げていきます。
もちろん、監督が一番イニシアチブを持っていて、監督に対して自分がいるのですが、音に関しては録音技師がイニシアチブを持って作業を進めます。効果技師さんと音楽家と監督との間を取り持ちながら、みんなの意見をまとめていくというのが録音技師のお仕事ですね。
オーディオブレインズ バランサーですね!
若林 エゴが出るとうまく行かないですね(笑)
オーディオブレインズ 録音技師さんの仕事が違ったら作品が全く違うものになりそうです。
若林 違うと思いますね。編集が終わってから最後に音をつけるので、その違いを出せるのもこの仕事の面白さというか。
私はよく映画作りを木彫りの塑像(そぞう)を作ることに例えたりします。「脚本」という設計図があって、現場では設計図に従ってみんなでこのパーツを切り出してきます。 切り出してきたものを「編集」が組み立てて、場合によってはCGで補ってさらにスタイリッシュにします。その時点ではまだ木彫の塑像で、それを「録音」が磨き込むんです。やすりをかけて磨きこむのが「整音」と言われる仕事です。
「効果音」はどちらかというと飾り担当で、衣装もですがどんな飾りにするかを考えながら付けていきます。そして「音楽」は色を塗る仕事ですね。色付けすると見え方が変わったり、うまくまとまったり。最終的にフェーシングを飾って、どういう風にしますかっていうのが「録音」の仕事です。
—とてもわかりやすい例えに納得です。現場は全然違いますが、私たちは普段会議室の音響に携わることが多く、最終的に自分たちで音響を仕上げることもあるので、共通するものがあるなと感じました。
若林 脚本という設計図を頼りに作っていくのですが、最後お客さんの手元に届ける所の仕事っていうのは内装の仕上げみたいなもので、録音という仕事はお客さんがダイレクトに感じる部分に近いと思います。みんながいくら頑張ってやってくれても、最後に駄目にすることもできるので、責任のある仕事ですね。
—とても興味深いお話をありがとうございました!最後にUniteに対してご意見があれば一言お願いします。
若林 Uniteが広まって、学生たちが外に出た時に「使ったことあるな」と思えるようになってほしいです。ブームオペレーターが判断できる環境になってほしいと本当にずっと思っているので、そこにUniteが寄与してもらえるとありがたいですね。
編集後記
「自身のオペレーティングに自信を持って、一技術者として成長してほしい」という生徒さんへの熱い思いをお聞きしました。
普段何気なく耳にしている映画の「音」。それぞれの職人技がぶつかって、組み合わさってこその作品なのだと思うと、映画を観る楽しみがまたひとつ増えたような気がします。
取材にご協力頂きました日本映画大学の若林様、大村様、そして撮影にご協力いただいた生徒様には、この場を借りて御礼を申し上げます。
日本映画大学 録音コースにTelevic Uniteワイヤレスシステムの送信機「Unite TP」と受信機「Unite RP」「Unite RP-T」を導入いただきました。これまで実習で使用していたトランスミッターでは、マイクを振るブームオペレーターが明瞭な音声でモニタリングすることができず、マイクの当たりを録音技師の判断に委ねるしかなかったといいます。
そんな現状を打破し「学生たちが主体的にマイクを振れるようになってほしい」という思いから、音質の良いトランスミッターを探していたという録音技師の若林准教授と、卒業生であり作曲家としても活躍されるアシスタントの大村氏にお話を伺いました。本記事は弊社スタッフとの対談を再現しております。